坂口安吾全集(2)

 筆者の長編小説『吹雪物語』と関連作品を収録(解説・種村季弘、解題・関井光男)。うち、『吹雪物語』は直筆原稿が底本(初の試み)。
 『吹雪物語』は越後新報の編集長・青木卓一をはじめとする男女の、恋愛をめぐる思想と行動を描いた長編小説だ(吹雪=新潟)。本作品の特徴は、登場する人物の心理を、各駅停車のように、ひとつひとつ描いていることだ。そのため、物語がなかなか進展しない。しかも、主たる話題が男女の恋愛なのだ。ところが、下半身(肉体)を否定した、上半身(精神)のみの恋愛であるため、砂を噛むような空疎な心理描写で埋まっている。しかも、登場人物がどんどん加わってくるため、そうとうな長さだ。恋愛至上主義とそれをめぐる煩悶は、現在では時代錯誤で、奇妙ですらある。
 筆者は再刊にあたり『吹雪物語』を悪夢とよんでいるが、読者には、それ以上の悪夢だった。

狼園(未完。『吹雪物語』の登場人物、青木卓一の妹の結婚とその破綻)236
母を殺した少年(未完。『吹雪物語』の登場人物、野々宮の生い立ちに流用。cf. 296頁)
吹雪物語
古都(『風と光と二十の私と』講談社文芸文庫
孤独閑談(『風と光と二十の私と』講談社文芸文庫

105円(2013-2-15読了)