吉敷竹史の肖像

吉敷竹史の肖像 (カッパ・ノベルス)

吉敷竹史の肖像 (カッパ・ノベルス)

満足度:☆☆★★★(星2つ) 「小説に主張を盛り込むから青臭くなる」
1. 書き下ろし*本格推理小説 光る鶴(p. 9)(満足度:☆☆☆★★)
 事件解決を天啓とか偶然に頼るのは二流の証拠だ。吉敷が一日で冤罪事件の真相を解決する。一人で考え、一人で解決する。もちろん読者は置き去りだ。自作自演というか、筆者の自己満足がめだつ作品だった。
 事件の再現シーンを小説内でおこなっているのも興醒めだ。これはテレビなどの映像でよくやる手法だ。しかし文字の世界では厳禁だ。視点がぶれてしまうからだ。主人公の視点に、いきなり事件の再現シーンを描いたら、嘘っぽくなるだけだ。
 
2. 事件の風景 吉敷竹史の旅(p. 191)(満足度:評価なし)
 名場面の写真と文で構成している。
 
3. 対談 吉敷竹史と「冤罪の構造」 島田荘司 vs. 山下幸夫(p. 225)(満足度:評価不能
 安楽椅子の司法談義。エール交換っといった感じ。山下氏のつぎの言葉は、筆者の小説を暗に批判しているとも受け取れて、楽しい。
 山下 「吉敷シリーズ」を読んで思ったのは、吉敷さんの取り調べというか、捜査はアメリカ的というか、とにかく全部、犯人の手口が全部わかったうえで逮捕する。これはアメリカ的な捜査手法ではないかと思います。つまり、日本的でないといいますか。
 
4. 書き下ろしエッセイと競作イラストレーション 事件の女たち(p. 273)(満足度:評価なし)
 筆者のコメントが添えてある。

5. 吉敷竹史シリーズ ブックカバー・コレクション(p. 285)(満足度:評価なし)
 あらすじを載せるのではなく、ずばり事件の犯人と真相を載せるべきだった。そうすれば価値もあがった。ブックカバーは新装版だけ。旧版はどこへいった?
6. 吉敷竹史と加納通子 事件史年表(p. 293)
 要はつじつま合わせということ。
 
7. 書き下ろし*青春小説 吉敷竹史、十八歳の肖像(p. 333)(満足度:☆☆★★★)
 吉敷ファンにとって主人公の語られない、空白の時間を埋めてくれる文章だ。ファン以外に価値があるかどうかは疑問。感動を安売りするな。
 
8. 吉敷竹史の思い出(竹内衣子)(p. 364)(満足度:☆☆☆☆★)
 本書のなかでは おそらく一番重要。担当編集者・竹内衣子(きぬこ)さんが吉敷シリーズの誕生秘話を語っている。
 占星術殺人事件』につづく『斜屋敷の犯罪』と『死体が飲んだ水』(後に『死者が飲む水』と改題)を読み、私は、どうしても、島田さんにカッパ・ノベルスで、作品を書いていただきたいと思いました。そして、八三年六月に、初めてお目にかかったと思います。/当時のミステリー界は、社会派ミステリー全盛の時代でした。「本格推理」などという言葉も死語に近い状態で、ミステリーマニアだけのものと思われていました。/そこで、島田さんの破天荒でマニアックなトリックを持つ猟奇的殺人事件を、当時流行していたトラベルミステリーのジャンルで書いていただきたいと思ったのです。(略)/島田さんは即座に賛成してくださいました。そして探偵役の刑事の造形に話は進みました。この刑事は、天才的な御手洗潔とは対照的に、地を這うような捜査をして、真実をつきとめる人物にしよう。しかし、従来の社会派ミステリーのような中年のさえない刑事ではなく、新しいタイプの男性にしよう。若くて長身でハンサムな—などと勝手な注文をつけたりしました。(略)こうして、カッパ・ノベルスの吉敷竹史シリーズはスタートしました。(p. 364-65)