育毛通

育毛通 (ハヤカワ文庫 JA (598))

育毛通 (ハヤカワ文庫 JA (598))

※元本は「現代ヘアーの基礎知識― Kamidas」で、[監修]稲葉益巳/[著]唐沢俊一・毛髪探検隊となっていた。毛髪探検隊はライターの、左保圭・おおいとしのぶ・伊藤剛(泊倫人)のことだろう。イラストに身内(ソルボンヌK子唐沢なをき)が加わっているのは、家内制手工業を思わせる。興醒めである。
カミダス―現代ヘアーの基礎知識

カミダス―現代ヘアーの基礎知識

現物をとりよせてくらべてみたが、文章の流れはほとんど変わっておらず、表現に手が加えられている(唐沢がゲラに手をくわえたと推察する)。元本には「医学・科学」「歴史・文化」「その他・雑学」に分類されているが、文庫本ではそれが省略されている。文庫化にあたり、これくらいの手間を払えなかったのだろうか。おかげで文庫版は本としての統一感をうしなっている。元本のほうが本としての仕上がりがよい。
満足度:評価不能 「評価に値しない」
余白があまりに多い(元本ではイラストで埋めていた)。合計すると3分の1くらいあるのではないか。文献を書き写して一「著」上がりという印象。参照文献の数があまりに少ない。プロダクション制をとればいくらでも量産できる類の知識である。唐沢俊一センセイによる「あとがき」にはこうある。
 
「文庫化にあたり、(略)僕の前著『薬局通』の続編として、読んで役にたたないが楽しい雑学の本として、体裁を改めた(p285)。」
 
「楽しい」どころか不愉快。手元におく価値を見いだせない。私が観察するところ、昨今の雑学ブームで開陳される内容は「知ってオシマイ」の類。本書のように、そこから深みのある知見を引き出す力量がなく、それを面白がるだけの様は痛ましい。
※メモ⇒表現の変更
『育毛通』の「ちなみに、筆者(唐沢)がいつも帽子をかぶっているのは、キャラクターを固定する一種の手段なのだが・・・」の部分(p204)。元本では「ちなみに、筆者もそろそろ前頭部があぶなくなってきていて、ふだん、帽子でそこらを隠している」となっていた(カミダス, p141)。キャラクター固定は後付の理由なのか? 唐沢センセイがいつも帽子をかぶる「もう一つの手段」について邪推してみる。
※メモ2⇒ドラッグ・ライターという出自
元本のプロフィール(1995年時点)
唐沢俊一[からさわしゅんいち]
1958年生まれ。作家・評論家。人間と医療のつながりに焦点をあてるドラッグ・ライターとして、医・薬学関係の評論を科学雑誌業界紙等に多数執筆。その方面の著書に『ようこそカラサワ薬局へ』(徳間書店)、『薬の秘密』(翔泳社)などがある。