読書術

読書術 (同時代ライブラリー)

読書術 (同時代ライブラリー)

※岩波同時代ライブラリー139(1993年刊行)。
読書術 (岩波現代文庫)

読書術 (岩波現代文庫)

岩波現代文庫(社会24)の『読書術』は本書を底本としている(新たな加筆はなし)。
満足度:☆☆☆★★ 「『読書術』という名の読み物にすぎない」
『頭の回転をよくする読書術』というタイトルで光文社から1962年に出版された(昭61に同社から文庫化されている。こちらはカッパ・ブックス版の完全な文庫化である。岩波版は見出しの変更、人物の生没年が追記されている。)。筆者は同時代ライブラリーへのあとがきでこうのべている。

「あらためて読み返してみると、三十年前の私の議論は今でもそのまま通用するというか、今の私が三十年前の私に賛成できる話のように思われました。(略)大筋は全くかわっていません。そもそも「読書術」なるものが、三十年やそこらで簡単に変るはずもないのです(p212-13)。」

 それもそのはず、筆者は読書「術」を掲げるが、実際のところ一般論しかのべていないからだ。これは「術」をあつかった梅棹の『知的生産の技術』がその歴史的使命を終えたことと比較してほしい。三十年後の自分が賛成できるのは、筆者の読書「技術」に普遍性があるのでなく、読書についての自分の考えが変わっていないというだけのことだ。
 たとえば6章で、どんな洋書を読んだらよいか、というテーマをとりあげている。しかし、それにたいする筆者の答えは「内容を知りたい本からはじめたほうがよい」(p127)。これは漠然しすぎており、実際には役に立たない。
 また本書は「〜でしょう」という表現がすごく多い。たとえば「もちろん、英語やフランス語にも、いくらかそういう(「人民」「民衆」「庶民」など立場によって表記がことなる)言葉がありますが、日本語の場合ほど多くはないでしょう。」(p82)といった、推量の意味を表す表現を乱発しているのである。あいまいな表現を濫発するやり方は、かえって読み手の信用を失う好例である。
 以上が、読書術にかんする本を何冊か踏まえて上での感想。初めて手にとる読書術本として、本書は不適格だと思う。おすすめできない。本書は初学者(当時の高校生)向けの読書論としてベストセラーになったと書いてあるが、そうだとすれば、出版社は罪深いことをしたものである。
 以下、本書のめぼしい読書術をあげる。
 
 1.らくな姿勢で読む⇒身体を忘れるのが読書の理想(p16)。
 2.できるだけ辞書をひく(p52)
 3.とばし読みの秘訣⇒全体のしかけをつかむ(p78)。
 4.同時に数冊読む⇒興味を新鮮に保てる(p85)。
 5.一人の作家だけつきあう近代文学は作家の個性を重んじるので(p101)
 6.目的をはっきりさせる⇒読まない本をきめる(p108)
 7.詩などの小説以外の外国文学は原書で読む(p137)
 8.文学作品・哲学思想はそれじたいで完結、ひとつの世界を形づくっているので新旧で判断しない(p155)
 9.自然科学の情報はナマモノなので新しければ新しいほどよい(p156)⇒読むなら新刊ということ
 10.百科事典で言葉の意味をしらべる(p190)
 11.読みながら著者の経験を感じとる(p198)
 12.本の内容がむつかしい⇒まず著者の文章がまずいか、本人じしんが内容を理解していない可能性がある。かりにりっぱな本でも、自分にとってむつかしいのは、自分がその本をもとめていないから(p209)。
 
 こうしてみると、半分は役に立たない。また、読んだあとどうするかについて言及がないのも本書の価値を減じている。

 同時代ライブラリーはその使命を終えた著作ばかりが並んでいるような印象。文庫サイズで保管できるという消極的な意味しか見いだせないものばかりなのが悲しい。