現代推理大系(5)

満足度:★★★☆☆ 「角田喜久雄が抜群にうまい」

 角田は「高木家」で機械トリックに重点をおいている。しかしこの作品の機械トリック(自動発射装置)には感心できなかった。本作で評価できるのは、角田が当時の風俗をよく描写していることだ。
 「笛吹けば人が死ぬ」とは、絵奈という少女が「自分もハーメルンの笛吹き男のように完全犯罪をやってのけることができる」と公言し、そして実際に公衆の面前で完全犯罪をやってのける話だ。中世の笛吹き男は笛を吹いて、町の子供たちを連れ去ってしまった。男は子どもに話しかけも、無理強いもしなかった。したがってこの事件は完全犯罪なのではないか、というのだ。この作品は当事者の因縁を事件にからめたことが、物語に深みをあたえている。
 「不連続殺人事件」については既読なので、割愛。
 「薫大将と匂の宮」は薫大将が三件の死亡事件の犯人か否かを、紫式部が推理するという内容だ。文体は個性的なぶん、とっつきにくかった。筆者は源氏物語の調子を再現しているからだ。しかしそれが現代の読者とのあいだに隔たりをつくってしまっている。岡田の「噴火口上の殺人」は面白った。それだけに本作が代表とされるのは、筆者にとって不幸なことだ。
 
〈目次〉
高木家の惨劇(角田喜久雄
笛吹けば人が死ぬ(同上)
不連続殺人事件(坂口安吾
薫大将と匂の宮(岡田鯱彦
推理小説文学論の周辺(角田喜久雄
解題(中島河太郎
年譜

2010/9/16読了