西ひがし

西ひがし (中公文庫)

西ひがし (中公文庫)

満足度:★★☆☆☆ 「すべては金子の自業自得」

 フランスからの帰国の途中で金子が立ち寄ったシンガポールでの、滞在の様子を振り返っている。金子がえがいているのは、目的を見失い、南方をさまよう中年男性の姿だ。金子は213ページで「なんどみすぼらしい僕の人生であろう」と自嘲している。しかし筆者の行動を追っていくと、それは自業自得なのだ。生きることを放棄し、立ち腐れるままにまかせているのは、金子じしんなのだ。
 本書をはじめとする自伝三部作は、それを赤裸々に書いたという以外、見るべきものがほとんどなかった。
 解説の中野孝次が金子の作品を引き合いに出しながら、本作を振り返っている。しかし生活失格者の当時の金子にたいし、そのような理解は無理であろう。なにせ滞在中は詩についてほとんど言及していないのだから(詩が帰ってきたのもつかのま、すぐにひっこんでしまう。本書のなかで一番の失望)。また中野は「義手で、片目で、背中に小さなほりものをした混血の女」と書いている。片目というのは金子の想像ではないのか。169頁を参照。

2010/9/5読了