龍臥亭幻想(上)

龍臥亭幻想 上 (カッパノベルス)

龍臥亭幻想 上 (カッパノベルス)

満足度:☆☆☆★★(星3つ) 「不治の病か」
1.エリマキトカゲ症候群
 エリマキトカゲは興奮すると、皮膚を傘のように開き敵を威嚇するらしい。また後ろ足だけで走るコミカルな行動でも有名だ。
 本書をよんで、島田作品をこの小動物と重ねあわせてしてしまった。両者は実体以上に見た目を過剰演出している点で、よく似ているからだ。
 まず冒頭から50ページ近くもある「森孝伝説」なる小咄がある。島田の提示する幻想とは見かけだけにすぎない。ほぼ100パーセント、謎の核心にかかわらないからだ。エリマキトカゲが自分を実体以上に大きく見せようとする、けなげな振る舞いとでも言えようか。機械的にページをめくるのが賢明だ。
 下巻にも「N研究所の思い出」なる、他人の書いた追想に手を加えた文章が登場する。これも雰囲気をもりあげるだけなので、無視してよい。ただしプロの作家なのだから、他人の文章に手を加えて、自分の小説に組み入れるのはどうかと思う。
 
2.主役の不在は致命的
 主役の不在は致命的だ。御手洗と吉敷はともにほとんど登場しない。脇役しかいないので、物語にしまりがない。謎解きになっていないのだ。石岡はオロオロするばかりで、話が終わってしまっている。
 『龍臥亭事件』以降、探偵役の御手洗は日本での事件に直接かかわってこない。自縄自縛とはいえ、この状況はどうにかしたほうがよい。
 幻想というと響きがよい。しかしこれは主役不在による、つじつま合わせに見えてしまう。
 
3.天変地異に頼るな
 幻想を演出するために、鳥取西地震級の大地震を引き起こし、交通を遮断するために大雪まで降らすとは、筆者には毎度のことながら呆れてしまう。そうまでしないと、演出できない幻想ってもはや幻想といえないのではないのか。筆者はあきらかに方向性をまちがっている。
 
目次
森孝(しんこう)伝説(p. 9)
第一章 最初の死体(p. 58)
森孝(しんこう)魔王 一、二(p. 190)
第二章 予告された二番目の死体(p. 214)