黒衣の聖母―山田風太郎奇想コレクション(3)

※満足度:☆☆☆★★(作品じたいの評価。太字は刊行当時、単行本初収録)
※戦艦陸奥/潜艦呂号99浮上せず/裸の島/女の島/腐爛の神話/魔島/黒衣の聖母/(解題・日下三蔵、解説・松山巌「闇の威力」)
※戦争ミステリー七篇を収録。これまた光文社の「山田風太郎ミステリー傑作選」の刊行により使命を終えている。
長篇ミステリにも一篇、戦争ミステリと呼んでさしつかえない作品があるが、解決部分で明かされる趣向なので、ここでタイトルをあげることは控えておく」(解題、319〜20ページ)
※「太陽黒点」のことです。日下は『戦艦陸奥』の解題でも廣済堂文庫版は、もっとも重要なトリックを内容紹介でバラしており、初読の読者にとって罪の重い本であった」と強い調子でのべている(703ページ)。私は『太陽黒点』を(戦争)ミステリーに還元するかのような発言には組みしない(戦争ミステリーとして評価するなら出来はよくない)。むしろ筆者じしんが戦中派の一人であることが本作を成立させたことが重要であろう。本作はたんなる戦争ミステリーではない。戦中派から太陽族への異議申し立てであり戦中派(太陽黒点)のやりきれない思いの結晶なのである。それがたまたまミステリーという形態をとったにすぎないのである。
※メモ⇒アナタハン島事件(「闇の威力」、328ページ)
風太郎の描き出す世界が荒唐でキテレツに思えながら、私たち読者の心を打つのはそれが人間の心の深部に触れるからである」(闇の威力、331ページ)。
山田風太郎の初期短篇がいまなお私たちの心に痛切に響くのは、人が人であろうとする祈りに支えられているからであり、それこそ白々とした薄明るい現代にあって人がもっとも飢え、希求する闇の威力だからである」(同、333ページ)。
風太郎作品は時代をこえた普遍性を、大衆文学というジャンルで達成していることがすばらしい。