誰のための綾織

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)

誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)

満足度:☆★★★★ 「私はそんな綾織(物)など求めていない!」
 プロローグ、作中作『蛭女』、エピローグ、あとがきという構成。プロローグ、エピローグは「飛鳥部」と編集者の稲毛の会話からなる。
 作中作『蛭女』は誘拐殺人事件について、被害者の鹿取モネ(17歳)が「私」の視点でつづった小説である。『蛭女』の表紙には「初稿⇒作中作」と記されている。しかし作中作では最後まで犯人はあきらかにならない。プロローグとエピローグを読むことで、事件の真相がようやく明らかにされる。
 作中作は352ページもあり、全体の9割をしめている。物を書き慣れないであろう、女子高生の文章と割り引いても、読み通すのが苦痛だった。(まるで機械がしゃべっているような)要領のえない独白や不毛な会話で埋め尽くされているのだ(私はこういうのを戯言(たわごと)の類として一括してくくり、相手にしないことにしている)。
 本作は「フーダニット」以前の問題をはらんでいる。それは暫定稿という名の不完全な文章を公にしていることである。とても正気の沙汰とは思えない。トリックのために物語を犠牲にしてどうするのか。これは作家としてのプライドの問題である。筆者はプロローグ(p3)で編集者に『上手く書けば禁じ手でも光るし、下手に書いたら素晴らしいアイディアでも屑同然だ』といわせている。筆者ははたして作中作を「上手く書けた」と自得しているのだろうか。
 なお例の盗用問題はオマージュと明記しておけば問題なかった。本作での一番の問題は筆者の表現能力につきる。
※「あなたは形ばかりのガランドウですね。服が立っているだけてす」(p157)とあるのは「〜だけです」の誤り。