怪談部屋 怪奇篇―山田風太郎ミステリー傑作選(8)

怪談部屋 怪奇篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈8〉 (光文社文庫)

怪談部屋 怪奇篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈8〉 (光文社文庫)

※満足度:☆☆☆★★(「うんこ殺人」がベスト)
※蜃気楼/人間華/手相/雪女/笑う道化師/永劫回帰まぼろし令嬢/うんこ殺人/万太郎の耳/双頭の人/呪恋の女/畸形国黒檜(くろひのき)姉妹/蝋人/万人杭(ワンインカン)/青銅の原人/二十世紀ノア/冬眠人間/臨時ニュースを申し上げます/1999年(以上、怪談篇)/あら海の少年/ぽっくりを買う話/びっこの七面鳥/エベレストの怪人/とびらをあけるな(以上、少年篇の補遺)/無名氏の恋/わたしのえらんだ人(以上、補遺篇の補遺)
※刊行順では本作が最後となった。本巻のみ、作品集の名前がとられている。編集者の思い入れもあるのだと思う。しかし「うんこ殺人」は奇想小説に属する部類であり、場違いではなかろうか。正直なところ、本巻への満足度は厳しいものだった。「うんこ殺人」が入っていなかったら、星2つだったところ。本人の解題にもあるように、筆者が無理して書いた分野だと思う。
怪談を成功させるには、天才的文章力と、それから、かく本人がそれを信ずる性格―すくなくとも一種病的性格の持主でなければなるまい。」(697ページ)
日本軍の精神主義を痛罵してきた、筆者の合理主義的な姿勢はこの分野と相容れないと感じた。
※「うんこ殺人」は昭和23年の作品だが、この時点ですでに「風太郎節」が確立しており驚いた。
※「約二千年前ほとんど同時にキリスト、釈迦、孔子が出て、爾来これに匹敵する宗教家がでないのは、(略)世界がしだいにそのような人にはうごかされなくなったのではないかと思いはじめた」(697ページ)
※「万古不変の物理法則に則って存在する平凡極まりない日常世界―そこへ、法則を無視して妖しいものを生み落とすことで、小説が存在するのだが―」(解説・菊池秀行)。現代は日常世界そのものが妖しいものをどんどん生み落とす時代。まこと、小説家にとって受難の時代である。