ある昭和史
- 作者: 色川大吉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1978/08/10
- メディア: 文庫
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「あらざるべきことがあり、あるべきことがない!」
本書で色川は自分史を試みる庶民の一例として、橋本義夫という八王子の奇人をとりあげている。冒頭の言葉は橋本の当時の心境をあらわした言葉だ(ただし橋本は天に唾する、そうとう困った人の部類に属すると思う)。
橋本は「あるべからざることがあり、あるべきことがない」という現実に絶望し、三度自殺を試みた。そしてライプニッツの「理由なしに何者も存在しない」という言葉にぶつかり、「あるべからざることがある」には理由がある、という考えにいたった。そして自然科学の方法論、唯物史観を独力で学んでいく(199-200頁)。
時は移れども、この状況は今も変わっていないことに気づき、ゾッとした。
(数年にわたる建碑運動を回顧した言葉から)
「地位の低い人や経済力のない人間が企てると反対が大きい。それは上からくる迫害ばかりでなく、同位置に近い人から反対が出る。競争心と嫉妬心が原因である」(227頁)
村びとは慣習的な世界に育ち、狭隘な性格をつくり上げる。うち者・よそ者意識、財産・身分による差別意識で凝り固まり、一身一家の利害だけ考えて嫉妬し競争しあう(187、190頁)。