静かな教授

静かな教授 (徳間文庫)

静かな教授 (徳間文庫)

満足度:★★★★☆ 「著者は事件よりも人間に関心をもつ特異な作家だ」
 
 本書は倒叙形式で、犯人をあらかじめ読者に明かしたうえで、事件の解決を描いている。逆に、犯行の手法が偶然性に頼っているので、通常の形式では無理があるともいえる。
 本作がユニークなのは、主人公たちにも犯人がわかっていることだ。というのも有力な容疑者は二人で、一方は主役の恋人なので、消去法で犯人が相良教授だとわかるからだ。しかし相良教授の犯行をどうやって立証するか、という難問が立ちはだかる。
 そこ著者は3つの問いを立てることで、事件の真相を描いていく。それは、なぜ克子(教授夫人)が殺されたか、なぜ相良教授が彼女を殺したか、いかに教授が殺したか、だ。つまり主人公たちは克子の人物像に迫ることで、相良教授の殺意と、殺害の手法を推理していく。
 このように本書はとても凝った構成なのだが、それをサラリと書くところが、この作家のすごいところだ。ユーモアをときおり差しはさむ余裕すらある。

5円(ポイント使用で100円オフ。背ヤケ。2011/3/22開始。同日読了。)