三文役者あなあきい伝(1)

三文役者あなあきい伝 1 (講談社文庫)

三文役者あなあきい伝 1 (講談社文庫)

満足度:★★★★☆ 「弟のことを考えると、おれは異常に興奮するんだ」 
 
 面白い。自分の生い立ちから役者になるまでを書いている。特徴的なのはその文体だ。鉛筆で一文字づつマス目を埋めていく様子が、活字をとおして伝わってくる。たとえば「畜生、日本帝国の、あッいけねえ、また鉛筆が折れてしもうたがな」というくだりが42ページにある。このような文章は現代ではもはやお目にかかれないのではないか。
 それにしても和田誠のカバー装画がひどい。本文との落差がありすぎて、まるでラクガキにしか映らない。手にとったとき買うのをためらったほどだ。まったく本書の値打ちを下げていると感じた(ちくま文庫版のカバーを担当した南伸坊もそうだ)。本書での筆者の濃厚な冗舌とは不釣合なのだ。やはり本書には著者本人のモノクロ写真を使って欲しかった(今では筆者を知らない人も多いだろうから)。

105円(2010/4/23読了)