「ロック」傑作選

「ロック」傑作選―甦る推理雑誌〈1〉 (光文社文庫)

「ロック」傑作選―甦る推理雑誌〈1〉 (光文社文庫)

満足度:★★★★☆ 「薔薇小路棘麿(=鮎川哲也)の筆名に苦笑」

〈収録作品〉
横溝正史「花粉(『笹井夫妻と殺人事件』の内)」(隣人で彫刻家の沢村は本当に鮎川千夜子を殺したのか)
北洋「写真解読者」(疾走したショスタコウィッチが、妻に残した遺品にどんな秘密があるか)
角田喜久雄「緑亭の首吊り男」(男が殺され、主人が自殺した緑亭での事件の真相はなにか)
大下宇陀児「不思議な母」(自分の夫は殺人を犯したのか)
山田風太郎「みささぎ盗賊」
島田一男「8・1・3」(殺された山岸博士が自分の血潮で書き残した818は何をさしているか)
薔薇小路棘麿「蛇と猪」(兄の巳太郎、弟の亥十郎のどちらが父の峯吉を殺したか)
水上幻一郎「火山観測所殺人事件」(だれが庶木博士を散弾で殺したか)
伴道平「遺書」(鉄道事故で死んだ荘原春江の死に、どんな背景があったか)
岡田鯱彦「噴火口上の殺人」(11年前に噴火口で死んだ香取薫の死の真相は何か)
青池研吉「飛行する死人」(だれがどうやって倫子(みちこ)を殺して三角地帯に運んだのか)
 
 評論も面白い。木々の議論は実践
〈探偵小説随筆〉(木々高太郎江戸川乱歩
木々高太郎「新泉録(1−3)」
江戸川乱歩「一人の芭蕉の問題」
木々高太郎「新泉録(4−7)」
江戸川乱歩「探偵小説の宿命についての再説」
木々高太郎「新泉録(8−10)」
江戸川乱歩論議の新展回を」
 
 木々による探偵小説=芸術という議論の立て方はまずい。乱歩は誠意をもって答えているが、不毛な議論になっている。すべては木々が悪い。
 乱歩が探偵小説について興味深いことをのべている。
 
「実際問題としても、内外の探偵作家がトリックと推理のある本来の探偵小説を書く場合、先ず人間を創造しその人間を必然を追って行って、ごく自然にトリックが生まれて来るのではない。そうではなくて、先ずトリックを考案して、そのトリックにふさわしき(可能なる限りに於て必然性ある)人間関係を生み出すという順序を採っていると思う。文学上のリアルとは逆であるが、そこに探偵小説の宿命がある。この宿命を無視してリアリズム文学の常道を進むならば、そこから生まれるものは探偵小説ではない。」(「一人の芭蕉の問題」446頁)
 
「往年夢野久作君が凡ての文学は探偵小説であると呼号したことがあるが、それは凡ての文学が人生の謎と取組んでいるという事実からの錯覚であった」(「論議の新展回を」472頁)

105円(2010/8/12読了)