隅の老人の事件簿

満足度:☆☆★★★ 「探偵は聞き役と話し役、どちらを務めるべきか」

 本書の形式は、ABCショップの隅に陣取った老人が、警察を悩ます犯罪事件の数々について、新聞記者ポリーを相手に自分の推理をまくしたてるという形式だ。
 本書が致命的なのは、謎を解く当人が同時に謎を提供していることだ。この老人はたとえば検視審問を見るために、わざわざ法廷まで足を運ぶ。そしてその様子を聞き手に語るのだ。したがって老人が聞き手に語っている時点で、真相がわかっていることになる。これでは謎解きのカタルシスが弱い。ここは聞き役と話し役を分けて、ポリーが謎を持ち込むべきだったろう(彼女は新聞記者なのだから)。
 
〈目次〉
フェンチャーチ街の謎
地下鉄の怪事件
ミス・エリオット事件
ダートムア・テラスの悲劇
ペブマーシュ殺し
リッスン・グローブの謎
トレマーン事件
商船〈アルテミス〉号の危難
コリーニ伯爵の失踪
エアシャムの惨劇
《バーンズデール荘園》の悲劇
リージェント・パークの殺人
隅の老人最後の事件

シャーロック・ホームズのライヴァルたち―隅の老人と生みの親オルツィ(戸川安宣

12/4読了