ユニオン・クラブ綺談

ユニオン・クラブ綺談 (創元推理文庫)

ユニオン・クラブ綺談 (創元推理文庫)

満足度:☆☆☆★★ 「謎にも国境があるか」

 本書は政府機関で働いていたグリズウォルド老人が、いかに自分が数々の難問を解いてきたか、ユニオン・クラブの会員を相手に語った話をまとめたものだ(以下、貧書生の話)。主人公のわたしとバラノフ、ジェニングズがクラブの談話室で話していると、グリズウォルド老人が自分が解決した不思議な話を語り出す。これが本書のフォーマットだ。

 話の中心は、老人がいかに謎を解いたかだ。したがって理論上は読者も謎を解くことが可能だ。手がかりも本文に登場している。そのほとんどが必然でなく、実際には可能性のひとつにすぎない。読み物として気楽によむのがよいのではないだろうか。

 読者が米国人でないと通じない話が目立つ。たとえば「逃げ場なし」は読者が米国生まれかどうかで、読後の印象が異なる。「電話番号」もケネディ暗殺を知らないとわからない。

 ユニオン・クラブは一編二千字の制約があった(原稿用紙で二十枚弱)。そのため謎解きが読者が共通にもつ知識への依存を高める結果になっている。したがって謎解きを味わうにはいま一つだ。

〈目次〉
 まえがき

逃げ場なし(今度の新入りがナチの回し者かをどうやって判断したか)
電話番号(情報提供者が待つ公衆電話の番号を当てろ)
物言わぬ男たち(囚人を扇動する首謀者の名前をどうやって当てたか)
狙撃(自分をねらう狙撃犯がどうしてわかったか)
艶福家(四人の女のだれがドンファンを殺したか)
架空の人物(さる国の工作員〈ピンぼけ〉はどこに消えたか)
一筋の糸(死亡した工作員の遺留品からいかに情報屋を探し出したか)
殺しのメロディー(ピアニストを殺した犯人の名前をいかに割り出したか)
宝さがし(〈兵隊〉は荷物をレストランのどこに隠したか)
ギフト(シュヴェンマーが送ってきた伝言から密告者を特定せよ)
高温 低温(溶液を保つ温度は摂氏か、それとも華氏か)
十三ページ(なぜ工作員からの情報が指定のページにないのか)
1から999まで(死んだトロンボーンは誰を後継者に指名したのか)
十二歳(大文字で書いたら、発音できなくなる単語とは何か。黒後家蜘蛛で既出)
知能テスト(七つの単語からなる暗号をいかに解読したか)
アプルビーの漫談(みんな、良い知らせがある。良い知らせは、神と話し合って戒めを十項目に抑えたことだ。悪い知らせは、姦淫の項目はどうしても削れなかったことだ)
ドルとセント(「ドルとセント」はホテルの何号室をさしているか)
友好国 同盟国(英国から届いた情報の、6月8日に何も起こらないのはなぜか)
どっちがどっち?(モウとジョウのどちらが宝石強盗なのか)
十二宮(デイヴィスを殺した内部の裏切り者はだれか)
キツネ狩り(どうやって麻薬の配送人フォックスをつかまえたか)
組み合わせ錠(数字好きな夫がもちこんだ、金庫(数字錠)の数字を当てろ)
図書館の本(急死した研究者はどこに極秘の秘密情報をかくしたか)
三つのゴブレット(密輸組織はダイアモンドをどうやって国内に持ち込んだのか)
どう書きますか?(友人の作家はなぜ本屋の店員から粗略な扱いをうけたのか)
二人の女(行方不明の娘が女テロリストと同一人物かを判定せよ)
信号発信(情報機関内部の二重スパイ〈御影石ラニット〉を五人の中から一人に絞れ)
音痴だけれど(殺し屋が現れる劇場を三か所から特定せよ)
半分幽霊(麻薬密売組織に通じる情報パイプの本名を、彼のニックネームから特定せよ)
ダラスのアリス工作員が残した悪戯書きからIRA支援の拠点を特定せよ)

 著者あとがき
 訳者あとがき

読了