読書は1冊のノートにまとめなさい

読書は1冊のノートにまとめなさい 100円ノートで確実に頭に落とすインストール・リーディング (Nanaブックス)

読書は1冊のノートにまとめなさい 100円ノートで確実に頭に落とすインストール・リーディング (Nanaブックス)

満足度:☆★★★★ 「読書は1冊のノートにまとめるなんて、おやめなさい」

 読書は1冊のノートにまとめなさい。筆者のこの主張を費用対効果という点から評価すると、筆者の方法論には致命的な欠陥がある。消費者に混乱をもたらすという点で、むしろ有害であるといえよう。
 本書の方法論が何かというと、(1)探書リストにもとづく本の入手、(2)読んだ本の引用と感想を読書ノートに記録、(3)検索テキストの作成の三つから成り立っている。まず探書リストにもとづく本の入手とは、リストを作成して本を購入することだ。そうすれば衝動買いでなく、本当に読みたい本を入手できるという。つぎに読んだ本の引用と感想を読書ノートに記録するとは、読む作業とノート作成から成る。読む作業として本文へのマーキングを読書と平行して行う。ノート作成とは本文中の重要な部分を抜き書きし、さらに本の感想を大学ノートに時系列で記入していく作業だ。最後に検索テキストの作成とは、読書ノートから巻数、分類タグ、タイトル/著者/出版社、アンカーを入力し、PCで検索できるようにしておくことだ。
 それにたいし本書を評価する費用対効果が何かというと、このやり方に投入する労力、時間、カネが、そのやり方から手にする成果に見合っているかだ。そのさいに重視するのは、それが手間のかからない仕組みかどうかだ。なぜなら文筆業でない一般読者にとって、読書から入手する価値は未知数だからだ。したがって過大な資源の投入は一般読者にとって不要なのだ。むしろ読者にとって必要なのは、再読することなく、一度読んだ本から必要な情報をすぐに引き出せる仕組みなのだ(この点で野口悠紀雄の超「超」整理法はすぐれている)。
 そこで労力・時間・経済性という点から本書のやり方を評価すると、筆者のやり方は一般読者にとって非効率、無駄なやり方だということがわかる。まず労力という点だ。この本では本にマーキングし、読書ノートに引用と感想を書き入れ、PCで索引を作成しないと機能しない。つまり多くの仕事、作業が必要なのだ。まずこれから読む本にすべてマーキングを施すのは、とほうもない作業だ。読書のペースを落ちてしまう(車の運転でブレーキをかけながら、アクセルをふむようなもの)。つぎに読書ノートの作成もハードルが高い。情報を1冊の大学ノートに記録するのは、情報の一元化という点で評価できる。しかし大学ノートの物理的な大きさを見逃している。読書ノート以外に日常の情報を一冊のノートに書き入れていくと、一年で百冊ぐらい貯まってしまうのではないか(日常のメモも1冊のノートに記録するわけだから、本書は「読書も1冊のノートにまとめなさい」が正しい)。しかも検索のため、すべてのノートはつねに番号順に並べておかなければならないだろう。くわえて情報の保存形態としてノートはバックアップに難点がある。最後に経済性という点からみると、本書のやり方は書籍の購入を前提とした読書法になっている。なぜなら本にマーキングするからだ。したがって経済性で上回る図書館の利用にこのやり方は向いていない。より深刻な問題は本の処分、購入した本をいかに部屋からなくすかという点を解決していないことだ。筆者の手法は便秘の問題を解消しないで、栄養があるからもっと食べましょうといっているに等しい。有害なのはあきらかだ。
 以上、読書は1冊のノートにまとめるべきかを費用対効果という点から検討してみると、一般人にとって非現実な手法なのはあきらかだ。筆者はノート方式を死ぬまで続けるつもりなのかだろうか。このやり方だと死ぬまでにノートの専有面積は相当なものになる。それくらい計算できそうなものだが。それとも筆者は自分が短命なので、許容範囲だと考えているのだろうか。最後に内容の重要度、難易度にかかわらず、たとえを使った説明が何度もくりかえされている。そのほとんどが冗長で不要だ。ねぎま式読書ノートの「ねぎま」が焼き鳥の「ねぎま」だということを知ってガッカリした。ネーミングのセンスを疑う。

〈追記〉本書を読んでさらに疑問をもった。(1)なぜ筆者は超整理法に言及していないのだろう。時系列での情報整理を前面に出したのは、超整理法が初めてだったはず。それに言及しないのはおかしい。他人のアイディアをあたかも自分のアイディアのごとく振る舞うのは、ジャーナリストとしては失格ではないか。逆に知らなかったという強弁は、自分が無知を認めるようなものだ。先人に敬意を示すのは最低限の礼儀だろう。
 (2)筆者は本書でノートのサイズに言及しているのだろうか。7頁に大学ノートという記載があるが、サイズを明示してなかった。収納・携帯も問題があるので、サイズは必ず言及すべき話題のはずだ。