不死蝶—横溝正史長編全集(3)

不死蝶 (春陽文庫)

不死蝶 (春陽文庫)

満足度:☆☆☆★★ 「わたしはいつかかえってきます。チョウが死んでも、翌年また美しくよみがえってくるように(本文45頁)」
(あらすじ)金田一は信州射水の素封家、矢部杢兵(もくえ)から身元調査を依頼される。ブラジルからの一時帰国中、保養で玉造家に逗留中の夫人、鮎川君江が二十三年前、鍾乳洞で次男の英二を殺し自殺した犯人、玉造朋子ではないかというのだ。君江とマリの母娘に注目が集まるなか、パーティーのさなか鍾乳洞に姿を消した君江を捜索中、杢衛が殺されてしまう。
 
 本書の問題は複数の謎を重ねた結果、物語の焦点がぼやけていることだ。「鮎川君江は玉造朋子なのか」「だれが杢衛を殺したのか」「朋子は矢部英二を殺したのか」「朋子はかえってきたのか」「なぜ宮田文蔵は犯人をかばったのか」。個別の謎(とくに最後の二つ)については読み手を引きつけるだけの力があっただけに残念だ。会話の多さも物語を軽くしている(ただし余計なウンチクもないので、軽快によめる。新鮮だった)。
※旧版(第14刷)

105円