- 作者: 島田荘司
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/10/21
- メディア: 新書
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満足度:☆☆★★★ 「死体消失の謎はもういいから」
(あらすじ)2004年7月、神社の離れで男性の腐乱死体が見つかり、不審な男が殺人罪で起訴された。しかし死体は発見直後に忽然と姿を消してしまった。里美は司法修習生として弁護をかって出ることになった。
ここ数ヶ月では一番ひどい読書体験だった。ミステリーを舞台に、社会正義を語ろうとするから、こんなみじめな作品が出来てしまう。筆者の正義の味方ごっこは悲劇を通りこして、もはや喜劇である。1.死体はどこにいったんだ!
さて作品全体を通していうと、死体が消えたという謎が本書をダメにしている。本書のミステリーとしての最大の謎は死体消失だ。しかしその謎が物語の柱である、今回の事件そのものの成立を怪しくしている。
死体がみつからないのに、殺人事件が成立するというのはおかしい。被害者の死体が見つかっていない以上、当局が殺人事件と認定するのは無理がある。目撃者は死体を発見している。しかし死体は消えている。あるのは頭髪と腕時だけだ。したがって殺人事件じたいが成立していない。しかし警察は、死体が消えたという目撃者の発言を否定しているにもかかわらず、殺人犯を逮捕している。あきらかに矛盾している。殺人という事実すら不確定なのに、なぜ犯人が存在するのか。しかし誰もその矛盾を指摘することなく、物語がすすんでいく(弁護側も追及しない)。
筆者は里美に「死体の海中投棄も、現実に死体がないものだから、無理やり捻り出した苦肉の策だ。あまりに露骨な、こんな辻褄合わせが許されてよいものだろうか」と言わせている(303)。本人は気づいていないようだが、自身への痛烈な皮肉になっている。
本書は最低限の整合性すら確保されておらず、まともな作品とはいえない。死体消失の謎ときは、物笑いの種にしてほしいのだろうか。人生も終盤にかかって、この程度の作品しか書けないのなら、いっそのこと引退してはどうか。2.キャラクター造形が安易
筆者は里美に舌足らずな口調でしゃべらせている。「ですしぃ」「ではぁ」、「ますぅ」。一方、彼女は独白では冷静で、普通にしゃべっている。このあたりの処理が中途半端で、物語を安っぽくしている。里美の口調ばかりでなく、筆者はお国なまりで人物造形している。この手法はいい加減な書き方だ。ところで、里美のような口調で、しかも漢字も満足に書けない。こんな弁護士がはたして依頼者の信頼を得ることができるのだろうか。3.作者のいいかげんさには閉口
筆者こそが現代ミステリー、低迷の元凶ではないのか。本書を読んでそう思った。島田は2006年たてづづけに6冊、本を出している。どれも独りよがりの作品だ。当然、完成度が低い。いい加減な作り方で出来の悪い作品をなぜ臆面もなく世間に問うのだろうか。筆者のいいかげんさには怒りをおぼえる。