トマシーナ

トマシーナ (創元推理文庫)

トマシーナ (創元推理文庫)

満足度:☆☆☆☆★ 「神とは、信じこむものというより、むしろ確信するものだ(354頁)」
(あらすじ)獣医のマクデューイは娘メアリ・ルーの愛猫を安楽死させる。この事件をきっかけに、メアリ・ルーは心を閉ざしてしまう。そしてそれが彼女の生きる気力を奪っていく。

 作品の主題は神への信仰だ。娘の父は神を信じない。しかし娘に死がせまるとき、彼は神に祈りを捧げる。
 筆者は猫という親しみやすい題材をとりあげつつ、信仰という深いテーマをあつかっている。それに気づいたとき、やけに重たいテーマだなと思った。
 マクデューイはギャリコじしんではなかろうか。彼は物語を書きつつ、神は信じるに足るかと自問した。そして結末のような見解にいたる。ゲーテのことばをなぞっていえば、人間は宗教的である間だけ、人生において生産的なのだ(『ゲーテ格言集』75ページ)。

 主題の重さはともかく、話の展開がうまい。ローリの前にマクデューイが登場する場面は見事だ。
 もちろん本書も筆者のユーモアに満ちている。とくに子猫タリタの造形がよい。彼女はエジプトの猫の女神、バスト・ラーの生まれ変わりだと自任する。しかしまわりの動物は相手にしない。153頁あたりの描写は本当に楽しめた(しかも気づくと、自然な形でタリタが家猫になって、ローリの側にいるのには感心する)。
 序盤の物語は平板だ。トマシーナの死あたりから面白くなってくる。ジプシーを動物虐待者として描くのは今の感覚ではとまどう。

105円