土屋隆夫推理小説集成(2)

満足度:☆☆☆☆★ 「探偵小説だが、生きることの悲劇を正面からとりあげている」
 私にとって本書は、土屋隆夫の再発見という記念すべき、作品集となった。両方の作品ともに、童話・メルヘンの叙情性、テーマの重さ、第二の事件が解決の糸口になる、という共通点をもっている。
 
「危険な童話」(1961年作品)
(あらすじ)女ピアノ教師の家で男の刺殺体が見つかった。男性は女性の亡夫の従兄弟だった。彼は数年前の傷害致死事件での服役をおえて、刑務所を出所したばかりであった。状況はピアノ教師の犯行を示していた。しかし凶器のナイフが出てこない。物理的に直接関与できない状況下で、彼女はいったいどうやって凶器を処分したのか。
 
 一言でいうと、重い作品だ。犯人が殺害にいたる経緯がやりきれない。各章の冒頭の、童話のあどけなさとの対比も鮮烈だ。
 興醒めしたのは、刑事の木曾の偏執的な捜査だ。筆者は刑事の姿勢を肯定的に描いているのはいただけない。それは予断で付きまとわれては、たまったものではない。
 
「影の告発」(1962年作品)
(あらすじ)私立高校の校長がデパートのエレベーター内で殺された。彼はなぜ殺されたのか。手がかりは現場におちていた名刺と、被害者の財布から出てきた「1949年 俊子」と記入のある、髪をオカッパにした女の子の写真だ。東京地検の千草検事が被害者の経歴を追うなかで、事件の真相そして容疑者があきらかになる。しかし容疑者は鉄壁のアリバイをもっていた。最終的に「影」が犯人を「告発」する。
 
 二作ではこちらが良かった。こちらの事件も敗戦が生んだ悲劇がからんでいて、やりきれない事件だ。あまりに過酷な運命は人を強くし、一方で犯罪にも導いていく。本作は運命と個人という普遍的なテーマをあつかっていて、それが作品を重厚にしている。

105円