明智小五郎全集

満足度:☆☆☆★★ 「なにも『全集』と銘打たずとも『明智小五郎選集』でよかった」
 本書の『全集』という名称に編者の作為を感じた。編者はよほど「全集」という言葉を使いたかったのか。「全集」と銘打つには、編者も認めるように、以下の作品群を除外している。
 
1.昭和四年の『蜘蛛男』をはじめとする通俗長篇における明智小五郎
2.昭和十一年「怪人二十面相」にはじまる少年探偵ものにおける明智小五郎
 
 したがって本書は正確には少年物をのぞく明智小五郎の活躍する中短篇、全八作品に、シナリオ版『黒手組』、「怪人二十面相」の一部抜粋をくわえた作品集なのだ。
 混乱をまねくような編み方は読者にとって有害無益だ。編者による作品解説が有益なだけに、無用の混乱が惜しまれる。
 
「何者」(私の友人の、結城弘一が父の書斎で盗賊に足を撃たれた。庭には犯人の足跡が残っていた)
「D坂の殺人事件」(団子坂にある古本屋の女将が死亡した。状況は密室であることを示唆していた)
「心理試験」(私こと蕗屋清一郎は老婆を殺害した。被害者は同級生、斎藤勇の下宿先の大家だ。私は判事の心理試験もくぐり抜けるかにみえた)
「黒手組」(伯父夫婦の娘の、富美子がいなくなった。そこに犯罪者集団「黒手組」から、身の代金を要求する手紙が届いた。)
「シナリオ黒手組」(同作品の脚本)
「幽霊」(仇敵の辻堂が死んだ。これで資産家の平田氏は安心の毎日をおくることができる。しかし死んだはずの辻堂が平田氏のまわりに出没しはじめた)
「屋根裏の散歩者」(郷田三郎は、犯罪願望をもつ虚無的な若者だ。ある日、彼は下宿の屋根裏から別室の様子を覗くことができることを発見する。それがきっかけとなり、入居者の一人を毒殺する。)
怪人二十面相より」
「兇器」
「月と手袋」
「巻末エッセイ」久世光彦
「人と作品」新保博久

105円