魔神の遊戯

魔神の遊戯 (文春文庫)

魔神の遊戯 (文春文庫)

満足度:☆☆☆★★ 「光が見えない・・・」
ネス湖畔の寒村ティモシーで、突如として発生した凄惨な連続バラバラ殺人。空にオーロラが踊り、魔神の咆哮が大地を揺るがすなか、ひきちぎられた人体の一部が、ひとつ、またひとつと発見される。犯人は旧約聖書に描かれた殺戮の魔神なのか? 名探偵・御手洗潔の推理がもたらす衝撃と感動・・・・・・。ロマン溢れる本格ミステリー巨篇。
 
1.御手洗シリーズにしたのは失敗
 語り手バーニーの謎解きにすれば、ミステリーとして読めたと思う。御手洗を登場させたことで、全体のバランスが崩れている。なお、ここで書かれていることは石岡和巳には絶対書けない。その点も筆者は留意すべきだった。
 
2.トリックが稚拙
 編集者はなぜ原稿を突き返さなかったのだろうか。このトリックを長篇でやられ、先を読むのが退屈でしょうがなかった。ミタライ先生が登場した時点で、失敗だ。考証もしっかりやってほしい。大学教授とはいえ、一般人だ。そんな人物を捜査にくわえるなんて、ありえない。国旗のトリックを臆面なく持ち出してきたことにも驚いた。ダイイング・メッセージなどという絵空事もどうかと思う。
 
3.シアルヴィ館のなぞ
 「セント・ニコラス」につづいて、本作もシアルヴィ館での会話ではじまっている(10ページのアリって誰なんだ。)。設定は2002年1月。
 本書で何人かの教授の専攻があきらかになっている。次作の伏線になれば、救いようのない本作もうかばれよう。
 
4.文庫版の表紙がひどい
 表紙にヘンなものが写っている。マンガみたいな魔神だ。筆者の描く魔神が見せかけにすぎないことを示しているのだろうか。それだったら、筆者にたいする正当なパロディでよいのだが。
 「名探偵・御手洗潔の推理がもたらす衝撃と感動・・・・・・」とある。どこが「感動」だったのだろうか。
 
5.衰えを感じる
 2000年以降の筆者、いわゆる「2000年型島田荘司」の作品を順に読んできた。「ハリウッド・サーティフィケイト」にはじまり、「ロシア幽霊軍艦事件」「セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴」、そして本書。
 ところがいずれも満足できなかった。筆者の「騙し」は「美しい謎」どころではない。無駄に残酷な死ばかりだ。解決も相変わらずで、力技ばかりが目立つ。「最後の一球」まで、すべて読む予定でいる。とはいえ、これだと今後、何冊読んでも同じという感じがする。時間の無駄のような気がしてきた。
 イエスマンではなく〈物言う〉編集者と、筆者はとことん話し合うことが必要ではないか。このままだと筆者は前世紀の作家だったといわれてしまうだろう。