明治の人物誌

明治の人物誌

明治の人物誌

満足度:☆☆☆☆☆ 「父の思い出」
 明治の偉人10人を紹介している。

    1.中村正直
    2.野口英世
    3.岩下清周(銀行家)
    4.伊藤博文
    5.新渡戸稲造
    6.エジソン
    7.後藤猛太郎(後藤象二郎の長男)
    8.花井卓蔵(弁護士)
    9.後藤新平
   10.杉山茂丸(息子は作家の久作)

 本書がすばらしいのは、本書は偉人の小伝であるとともに、父親への追想になっていることだ。
 星一(はじめ)は福島生まれ。アメリカで苦学し、帰国後製薬業をはじめ成功した人物である。その過程で同時代の偉人から有形無形の影響をうけた。
 息子・新一は本書で、父・星一にゆかりのあった人物をとりあげた。その選択が本書を凡百の偉人伝と異質にしている。
 とくに興味をいだいたのは、伊藤博文新渡戸稲造杉山茂丸の三人だ。星は「平凡な偉人」伊藤についてつぎのようにのべる。

彼は大きな目標とか、主義主張とか、理想とかをかかげ、それをめざして進むという性格ではなかった。また、にくめない人柄でもあった。威圧感も与えないかわりに、大人物あつかいもされない。西郷隆盛とは対照的である。(p. 93)
 新渡戸稲造についてはこうのべている。
欧米の名著の大部分を原語で読み、歴史を知り、それを理解し、しかもだれにもわかるような表現で語りかけてくれるのである。知識をひけらかしたり、ひとつの学説をふりかざして虎の威を借る狐のようなこともしない。(p. 126)
 杉山茂丸についてもたいへん魅力的な人物に書いている。星は、杉山、頭山、玄洋社、右翼という先入観をもっていたので、とくにこの章だけでも、もっと注目されてよい。惜しむらくは久作との関係をもう少し書いてほしかった。