牛のあゆみ

牛のあゆみ (中公文庫)

牛のあゆみ (中公文庫)

満足度:☆☆☆★★ 「無難なことをやっていては、明日という日は訪れて来ない」

古径先生はよく「ちょっとの間でも、絵の事から頭脳をはなしてはダメだ」と言っておられたが、その言葉の意味がわかりかけてきたような気がした。しかし、この気持ちをくずさずにいくことはむずかしい。ただ私としては、いつごろからか心に決めたことは、不断に努力を重ねて、あとは自然のおもむくままに任せたいということであった。この気持ちは、今日でも変わりがない(84頁)。

同じ年(昭和二九年)、姫路城の修理が行われるということを聞いて、その前に写生に出かけた。美しい天守閣を仰ぐ構図で描いたが、私はこれを描くころから何か開放されたような気持になって、自由にのびのびと制作できるような気分になっていた。描きたいと思った対象なら、人物、風景、動物、花鳥、なんでも失敗をおそれずぶつかっていきた、無難なことをやっていては、明日という日は訪れて来ない、毎日そう考えるようになっていた。(149-50頁)

105円