新しい歴史教科書—市販本

新しい歴史教科書―市販本

新しい歴史教科書―市販本

「国民は運命ではない」。多くの人はたまたまその土地に生まれたにすぎない。これは否定しようがない事実だ。しかし国民であることが運命であってほしいと願う人たちがいる。本書はそんな人たちがつくった歴史の教科書だ。「騒ぐほどのことはない、普通の教科書だ」との感想もあるが、強烈な個性をもっている。
まず本書はまえがきで、日本の歴史を私たちの先祖の営為と定義し、生徒一人一人に日本の歴史を背負わせている(6ページ)。血のつながりをあげ、世代をさかのぼれば日本列島の住民はじぶんたち共通の祖先であるといい、血の共同体としての日本を唱える(しかし、彼らによる血の議論は国境をこえることはない)。結果、日本の歴史はどの時代を切っても、私たち共通の祖先が生きた歴史と位置づけられている。そのような願望を個人がいだくことは自由だ(気の毒だとは思うが)。しかし他人の子どもに押しつけることに抵抗を覚える。
あとがき(227ページ)では、「自分をしっかりもつ」ために、すなわち自己確立のために「自国の歴史と伝統を学ぶ」ことを説いている。しかし、彼らが自己確立の答えとしてもちだすのは、日本人としての自覚なのである。これは一つの回答かもしれないが、これも彼らの願望にすぎない。こんな内容が堂々と書いてある。
本書は「新しい」歴史教科書どころか、基本的な発想は「最後の授業」や19世紀フランスの歴史教科書の域を出ておらず、その嫡子とよんでよいほど古典的なのである。
グローバリズムの名のもと、経済と国家がバリバリと音を立てて裂けている今の世の中で、本書のような復古への衝動がその回答になるとはとうてい思えない。