十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選(2)

十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉 (光文社文庫)

十三角関係 名探偵篇―山田風太郎ミステリー傑作選〈2〉 (光文社文庫)

※満足度:☆☆☆☆★(星4つ)
※チンプン館の殺人/抱擁殺人/西条家の通り魔/女狩お女郎村/怪盗七面相/落日殺人事件/(帰去来殺人事件)/十三角関係(長編)
※酩探偵(?)荊木歓喜の事件簿。この歓喜先生、事件を前にして、まったくもって無力なのが腹立たしい。全体的に、ミステリーとしての詰めがあまい短編がめだつが、これでよい。なお、解説の森村誠一さんはこんなことをいっている。「作品をどのように読もうと読者の自由であるが、小説は作者がどのような虚構の世界を築こうと、作者の人間性と人生がどこかに投影している。そして、それが読者の人生観や生き方と共振するとき、面白く共鳴をおぼえるものである。読者が面白くない、認められないと判定したり反発したりするのは、読者の生き方や人生観とは相反するものがあるからだろう」。そのとおりだと思う。
※追記:手元にある二版では説明なしに、「帰去来殺人事件」が削除されている。その痕跡すらない。
※1/11追記:初版第1刷をとりよせて、「帰去来殺人事件」をよみ終えた。本作品は、差別的表現とされる「ちんば」「びっこ」という単語があまりに過剰に使用されているばかりか、トリックの1つにもなっている。これが二刷から削除された理由なのだろう。しかし、だからといって「なかったことにする」というのはいただけない。たとえば岩波新書『報道写真家』のように、その旨を扉で言及したほうがよかったのではないか。
※「帰去来」とは「故郷に帰るために、ある地を去る」ことなので、チンプン館の住人、石黒魚蔵の帰郷ととらえるのが普通。しかし彼は作品の本筋にからんでいない。風太郎作品における題名と内容とのかい離については何度か指摘しているが、この作品にもあてはまる。これは雑誌の予告などの掲載する都合上、題名だけ先に決まるという事情があったのかもしれないが。
※「わしは生きてゆく。わしが生きてゆく以上、若えあんたも生きてゆくんだ。」(「帰去来殺人事件」332ページ)