太陽黒点―山田風太郎傑作大全(24)

※満足度:☆☆☆★★
※長編。「誰カガ罰セラレナケレバナラヌ」。戦中派によるアプレゲール(戦後世代)への異議申し立て。表題が内容とかい離しているのが難。新世代の登場を「太陽黒点」の影響、すなわち突然変異なのではないか、とのくだりが文中に登場する(22−3ページ)。つまり「太陽族」を標榜するアプレゲールこそが異常なのだと。
後年私が『太陽黒点』という推理小説を書いたのは、彼ら(自分をふくめた、いわゆる「死にどきの世代」)への鎮魂歌のつもりであった。あまりにも「つか」なかったこの世代が、のちの「太陽の季節」族へのやり切れない怨念を抱くという―むろん推理小説にかぎり、その動機は許されると私が判断した観念的なもので、その怨念の不当であることを示すために、ちゃんと犯人は小説の中のみならず読者からも憎しみを以て罰せられる人物として描いた。これに対して、その戦後世代に属する批評家から、「戦争責任者はこの犯人の世代ではないか」と、小説から離れた感情でかみつかれたのは、その私の配慮にひっかかったのである。しかし、十五歳で日中戦争、十九歳で太平洋戦争に叩き込まれた世代に、「戦争責任者」と刻印を打つのはあまりにも無知であり無神経ではあるまいか。(風眼帖1より)
筆者とおなじ大正十一年生まれにマンガ家の水木しげるがいる。彼も生き残りの一人である。
※本書にはまたしても細谷正充が解説者として登場しているが、どこまで作品への理解に貢献しているかは疑わしい。
※(追記)同作品を収録している『戦艦陸奥山田風太郎ミステリー傑作選(5)』の解題で日下三蔵はこうのべている。「この廣済堂文庫版は、もっとも重要なトリックを内容紹介でバラしており、初読の読者にとっては罪の重い本であった」。実際のところ、そんな罪深さは感じなかった。終盤のどんでん返しは中盤までとの断絶がはなはだしく、やはり凡作だと思う。
※傑作大全を読みはじめて2ヶ月。ようやく全巻よむことができた。風太郎作品の大衆性はいまなお輝きを放っていることを確認できた。ちなみに、作者の切支丹ものを集めた『売色使徒行伝』が個人的なベスト。あとは細谷正充の解説さえなければ言うことはなかったのだが・・・。