生ける屍の死

生ける屍の死 (創元推理文庫)

生ける屍の死 (創元推理文庫)

満足度:☆☆☆☆★(星4つ) 「最後のページをめくるのが残念でたまらなかった」
1.状況設定の妙
 死んだ人間が生き返るという状況設定がすばらしい。作者が構築した、トゥームズ・ヴィルに私は惹かれた。おそらく、登場人物の会話がよく書けているからだろう。最後のページをめくるのが残念でたまらなかった。これぞフィクションの醍醐味だ。
 
2.簡潔な文体
 本を読んでいて、しつこくない。600ページもの作品なのに、あっさりしている。考えると、この人の文章は簡潔なのだ。そのため長さを感じさせない。筆者の美点だ。ミステリー作家には珍しいのではないか。たとえば解説の、法月綸太郎の文章をくらべれば、その差は歴然としている。
 
3.肝心な仕事がお留守になっている
 舞台設定や状況描写に凝りすぎて、物語の進行がお留守になっている。肝心なのは読者をジェット・コースターにのせ、ゴールまで駆け抜けることだ。それに対し本書は、もたつき感がぬぐえなかった。ハース博士のうんちくもわずらわしい。残念だ。
 
(追記)主人公の死は避けられなかった
 本書をふりかえると、主人公が生ける屍になる必要があったことに気づく。なぜなら本書は死者が蘇るのだから、死者の視点を入れて推理する必要があるからだ。そのため生ける屍とはどのようなものか、読者に提示しなければならない。そうでないとフェアでないといわれかねない(主人公が死ななかったら、蘇る死者への恐怖心が高まる。そのばあいホラー小説になるのではないだろうか。このあたりの文法は興味深い)。主人公の唐突の死は、作者にとっては必然だったといえる。
 
※2007年2月8日読了

105円